京都の「空き家活用」に学ぶ。街の物語を繋ぐ、リノベーション

こんにちは。浜松の「木の家づくり応援団」、大林勇設計事務所の大林です。

 

先日、既存空き家の活用事例を学ぶため、京都で店舗や民泊施設として再生された京町家をいくつか見てきました。京都の街を歩いていると、単に古い建物を保存するだけでなく、現代のニーズに合わせた「販売」・「宿泊」という機能を吹き込むことで、建物が再び息を吹き返している姿に深い感銘を受けます。以前建物が立っていた場所が、いつの間にかコインパーキングに変わり、アララ・・という場所を何度も見ているので、リノベ工事をして新たな生命を吹き込まれている工事現場を見かけると、チラッと覗きつつ、何ができるのだろうかとついつい応援してしまいます。

 

建物は個人の財産でありながら、それが作り出す景観は「公的な財産」です。 一軒の古い家が消えることは、その街が積み重ねてきた記憶の拠り所がなくなることを意味します。 では、この京都の手法を、私の拠点である浜松市や他の街でどう真似し、展開していけるのか。設計者として考えてみたいと思います。

「下地から直す」という性能への誠実さ

京都の優れた改修事例に共通していると私が考えるのは、表面的なお化粧直しではなく、見えない部分への投資です。 私が古民家改修で常に提唱しているのは、「直すなら下地から」という原則です。 ただ、コストはそれなりに掛かります。 

 

以前、当事務所が手掛けた事務所から住宅へのリノベーションでも、既存の建物の中に断熱を施した新たな居住スペースを「挿入」する手法を採りました。京都以外の街で空き家を活用する際も、まずは一級建築士としての理系的な視点で、耐震等級や温熱環境を劇的に向上させることが不可欠です。この「ハードウェア(性能)」の裏打ちがあってこそ、古い建物は現代の資産として成立するのです。

経年変化を価値に変える「本物の素材」

京都の町家が宿泊客を魅了するのは、年月を経た木や土が放つ「時間の厚み」があるからです。 量産型の住宅で使われるビニールクロスや合板フローリングは、完成時が美しさのピークであり、時を経て劣化していき、味わいが増すことはありません。

 

浜松市のリノベで真似をしていくのであれば、時が経つほどに「美しく古びる」性質を持つ地元の天竜杉や桧、そして漆喰左官といった自然素材を存分に活用していくのばよいと思います。 空き家活用において私たちが真似るべきは、この素材選定の思想かと思います。傷や色の変化さえも「建物の歴史」として愛着を持って住みこなしていく。天竜杉の柔らかな足触りや、漆喰が光を吸い込む表情を活かした空間は、新築の既製品には出せない圧倒的な居心地を生み出します。

「濃いダシを少し作る」という取捨選択

予算や条件に制限がある中で、京都のようなクオリティを実現するためのコツが、私の設計哲学である「薄いダシをたくさん作るより、濃いダシを少しだけ作る」という考え方です。

建物のすべてを完璧に直そうとすると、コストは際限なく膨らみます。しかし、例えば「玄関からリビングにかけての空間だけは、天竜の厚板と本漆喰で徹底的に作り込む」というように、エキスの濃縮を提案します。京都の民泊でも、土間や中庭といった特定の場所にデザインの密度を凝縮させることで、宿泊者に強い印象を与えています。この「密度の高い居心地」のデザインこそ、私たちが一品生産の家づくりで最も真似すべき手法です。

「街歩き」で見つける、その土地固有の答え

京都の手法をそのままコピーするのではなく、その街にしかない「ロケーション」を読み解くことも重要です。 私は仕事の合間を縫ってよく街を歩きますが、車では見えない「脳に入る情報」を大切にしています。昔ながらの緩やかに曲がった道が残り、部分的に現役で息づく歴史に触れると、その土地ならではの再生のヒントが見つかるのかな、と思います。 ただ、京都の歴史の蓄積と集客力は圧倒的なので、一朝一夕に真似することは容易ではありませんが、外から来る人は何を求めて、足を運ぶのかを客観的に考える必要はあると思います。

 

空き家を民泊や店舗に変えることは、その街の物語を次世代へ繋ぐバトンパスです。 放置しておくだけでは確実に建物は傷みます。 地震への不安や断熱性能の低さといった課題を今の技術で補いながら、先人が残してくれた想いを住み継いでいくことを建築士として意識する必要があるのでは。 さもなければ、全国各地で画一的な面白みのない街並みになる未来が・・・。

「建物活用・家づくりの駆け込み寺」として

京都で見たような、五感に響く静かな感動を、皆様の日常や地域の空き家の中にもデザインしていきたい。 もし皆様が、古い建物の扱いに困っていたり、画一的なリフォームに違和感を抱いているのであれば、ぜひ当事務所を「駆け込み寺」として訪ねてみてください。

図面を書くだけでなく、実際に現場で木や土に触れ、その建物が持つ「最高の景色」を一緒に探していくこと。 今回もまたその意識を強くしました。

大林勇設計事務所

 浜松市浜名区にある一級建築士事務所。天竜の木と漆喰が織りなす「木の家に暮らす愉しみ」をデザインしています。古民家リノベーションや街並みに調和する家づくりのご相談も、お気軽に。