大林くん、「豊かさって何だと思う?」

今日のタイトルのこと、在学中に今は亡き恩師に聞かれた質問です。 22,3歳の頃ですから、そんな雲を掴むような質問、ギョッとしますよね。 思い出すだけでも懐かしい。

 

 人生観に大きな刺激を受けた、荒谷登北海道大学名誉教授(2022年6月逝去)に最後にお会いしたのは、2017年のちょうど今頃8月の北海道マラソンに参加するために札幌に行ったときです。 流石に定年退官の20年後ですから、それなりにお年を召しておられました。 当時45歳位の私でしたが、やはり先生の前では学生時代の懐かしい景色が脳裏に次から次へと浮かび、背筋が伸びてしまいます。 

 

 今から40年以上も前に、北海道で断熱気密の技術が日の目を見始めた頃、自らの研究成果を確かめるべく高性能な部材も設備もなかった時代に実験住宅として自宅を建てられました。 耐震等級も省エネ等級も長期優良住宅なんて言葉もなく、ZEH?何それ?という時代です。  今でこそ国内外の各社から専用部品が市販されていますが、気密層はビニールハウス用のシートだったり、トリプルガラスは自作だったり、手作り感が半端ない地味な外観の建物ではありますが、技術は当時の日本最先端でした。 無いものは作る、という姿勢を学べたことは私の財産です。

 

 現在では、私と同時期に博士課程で在籍していたイラン出身のタギさんが住んでおられ、持ち前の器用さを活かして傷んだ部分の修復をしながら旧荒谷邸を守っています。

 

 学生時代の先生のゼミは、非常に哲学的で、建築以前のもっと考え方の根底のような部分を教えていただいたことが懐かしく思い出されます。 表題の「豊かさ」についても、もちろん金銭的なことでもなく、豊富に物資に囲まれることでもなく、「足るを知る」という精神的な充足なのではないかと私自身受け止めています。

 

 建築の設計をする上で、私自身が思い描いているのは、家族が心地よく健やかに暮らすための器をどう作れば「豊かさ」を作り出せるかということ。 そこには、ポンとお金を出せば買える高性能タンクレストイレも高性能エアコンもコテコテのシャンデリアもあまり関係ありません。 しっかりと断熱がされ、耐震の安全性能が確保された上で、ゴロッと寝転がるとサラッと快適で、窓の外を見ると庭木の緑が目に入る、欲を言えば、庭の小さな畑で何か収穫があると子供も大人も楽しいだろうな、なんて妄想に近い思いを大切にしながら、設計活動をしています。

 

 学生時代から思い出の詰まった大好きな北海道マラソンが近づいて、ふとそんなことを思い出しました。